リンコ's diary

田舎の地域医療を志す薬剤師

月刊ブログ 田舎の地域医療を志す薬剤師(2021.1)(コロナワクチンについての勉強会【前編】)

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いよいよ新型コロナウイルスワクチン接種の機会が迫ってまいりました。

院内の職員に接種を希望するかどうかの意思を確認しなければなりませんが、どうも接種を不安に考えている人が多くいるような雰囲気がありました。

それはまずい!と思い、第2回の院内感染対策研修会で扱うことにしました。

先日その講演が終わりましたので、その内容をスライドと共にブログに起こしました。

 

今回はその【前編】として「コロナワクチンの接種スケジュールとファイザーワクチンの有効性・安全性」について書きました。

 

なおスライド作成に当たりましては、様々な記事や講演会、ツイート等を参考にさせていただいております。(酷似しているものもあるかもしれませんので、不適切でしたらご指摘ください。)

また私見も多く含まれておりますので、取り扱いには十分ご注意ください。

※講演は1/25に行い、ブログ記事は1/31に書いております。情報は最新のものを参考にするようにしてください。

明らかにおかしな部分があればご指摘いただけると幸いです。

 

 

それでは始めていきます。

 

 

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今回の研修では事前アンケートを行いました。疑問点や不安点を上げてもらい、このような結果となりました。やはり副作用のことを書かれている方が多かったですし、効果や海外製であることも疑問や不安の因子でした。その他、漠然とした不安がある方も多い印象でした。

また、研修前時点での接種を希望するかしないのかもアンケートを取りました。医療職と非医療職で分けて解析したところ、医療職の方が接種を希望する方が多かったです。医療職は腹を決めているというか、打つという決意をしている方が多かった印象ですし、非医療者の方は少し後ろ向きな方が多かった印象です。

 

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本題に入る前に接種スケジュールとその対象者を紹介しました。

まず1万人の医療従事者向けの先行接種が2月中に行われ、その他の医療従事者が3月中旬、高齢者が4月上旬、その後に基礎疾患のある方・施設関連職員への接種が行われ、それが終わり次第一般の方への接種となる予定となっております。

対象者の詳細はその他のスライドをご確認ください。

 

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 次に、妊婦に対する接種の考え方についての話をしました。

非常に悩ましいです。全体的には妊婦の接種の安全性に対するリスクの有無が証明されていないため、非推奨としている国や団体が多いです。

しかし妊婦は重症化のリスクとも言われております。

また、先日産婦人科感染症学会から提言がありましたので、そのスライドも紹介しておきます。

医療機関で働くことのリスクも考えなければなりませんので悩ましいのですが、妊婦への接種に関する明らかなリスクは報告されていませんので、個人的には接種する意義は十分にあるのではないかと思います。

 

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こちらは近々日本で承認されるであろう3社のワクチンをまとめたものです。

ファイザーが一番最初に承認され、接種されると思われます。医療従事者への接種もファイザーのワクチンとなるでしょう。そのため、今回の講演ではファイザーワクチンを中心に話をさせていただきました。

ファイザーという会社をよく知らない方もいらっしゃると思いますが、世界一の製薬メーカーですね。それゆえに信頼度は問題ありません。(日本のジェネリック部門はアレですが、、、)

接種回数は21日間隔での2回接種です。また保管は報道等でご存知のように-75℃での補完となっております。

1バイアルで5人分(一部報道では6人分とも言われております)、生食での希釈が必要なワクチンです。

 

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こちらはその3種類のワクチンについてのスライドです。

ファイザーやモデルナのワクチンはmRNAのワクチンです。こちらが世界初の技術ということで注目を集めております。一部不安を煽る報道もありますが、その種類によって何か長期的な副反応等が起こるのではないかという心配は現状ではないのではないかと思います。

対象年齢は治験の結果を受けてファイザーのワクチンは16歳以上となっており、15歳以下の方はおそらくしばらくは接種できないと思われます。そのため、そういったお子さんのいらっしゃる方や接触の多い方は積極的に接種する必要があると思います。

接種方法は筋注です。日本のワクチンは皮下注が主流でしたが、世界では筋注が主流です。インフルエンザのワクチンでは皮下注と比べて筋注の方が抗体が付きやすく、副反応も少ないと言われております。ようやく世界標準に追いついた形ですね。

ワクチンの筋注についての分かりやすい記事↓

有効率については後で詳細を紹介しますが、ファイザーとモデルナのワクチンは90%以上の効果が報告されております。この2つのワクチンは同じmRNAワクチンということもあり、有効性や安全性は似通っているようです。

 

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Bloomberg - Are you a robot?」による新型コロナワクチンの各国の接種率の比較です。講演を行った1/25現在のものですので、最新版はサイトにてご確認ください。

イスラエルの接種がかなり積極的に進んでおり、UAE、イギリス、アメリカがそれに続いております。

日本人の接種がまだ行われていないという不安も聞かれておりますが、アメリカには130万人ほどの日本人が生活しており、すでにアメリカでは6%の接種が終わっていることを考えると、数万人の日本人が接種したともいえると思います。

 

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ここからはファイザー社のワクチンの論文を紹介していきます。

判断するのに必要な情報が十分に届いていなかったり、不安を煽るような情報が出回っていたりするので、この論文での報告を紹介することでそういった不安が解消すればと考えました。

 

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こちらは12月のエビテンという抄読会で使用したスライドです。

6か国の約4万人を対象としたプラセボ対象三重盲検RCTであり、男女50%ずつ、55歳以上が42%、平均年齢は52歳でした。追記期間は約2か月です。

(院内には非医療職の方もいらっしゃいましたので、プラセボや盲検化についてもお話ししましたがこのブログでは割愛させていただきます。)

脱落例を除く両群約18,000人が解析に組み込まれました。ワクチン接種後すぐに効果が出るわけではないので、2回接種の7日目以降での症状発症者を解析に組み込んでおります。

結果として、ワクチン群での感染者は0.04%、プラセボ群での感染者は0.88%であり、有効率は95%となりました。つまり、ワクチン接種群で95%感染者が減少したということです。つまりワクチンを接種すると接種しない人と比べて95%感染のリスクが減るということですし、逆に考えると接種しなければ接種した人と比べて20倍感染しやすいということが言えます。

効果はワクチン接種後12日ごろから認められており、また重症化についてはワクチン群1名に対してプラセボ群9名で観察されております。重症化予防に関しても効果があるといえるでしょう。

また安全性(副反応)は1回目の接種後7日以内について示していますが、注射部位の痛みは高確率で発現するようです。これは覚悟しておいた方がいいでしょう。筋注による痛みではないかとのご意見もあるかと思いますが、プラセボ群ではほとんど発現していないことを考えるとワクチンによる痛みではないかと考えられます。

また、疲労や頭痛も比較的高確率で報告されております。ただこれらはワクチン群だけでなくプラセボ群でも多く発現しています。ただの体調不良とか気のせい(いわゆるノセボ効果)ということが考えられます。つまり、本当にワクチンによる副反応というのはワクチン群とプラセボ群との差を見ないといけません。例えば、16-55歳の疲労は差が14%なので7人に1人、頭痛なら差が8%なので12人に1人に発現したと言えます。そう考えると発現率はそれほど多くないのかもしれません。

また、重篤な副作用についてはワクチン群で0.6%、プラセボ群で0.5%と差はありませんでした。

 

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こちらは参加者の詳細ですね。ワクチン群とプラセボ群で特に差はありませんでした。

ワクチン群の最高年齢は89歳となっております。

 

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こちらは結果のグラフですね。横軸が初回投与からの日数、縦軸は感染者の割合となっております。すごいグラフですね。ワクチン群は横ばいなのに対し、プラセボ群は右肩上がりになっています。結果の95%の有効率というのは2回目のワクチン接種後7日目以降なので、28日ごろからの有効率と言えます。

ただ、3か月経ってもプラセボ群での感染者は2%程度ですので、感染者はさほど多くないともいえるかもしれません。これは海外のデータなので、日本ではもっと少なくなると思われます。

また左上には拡大した図がありますが、12日目くらいから効果が表れてきたようです。

 

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こちらは年齢、性別、人種、国別でのワクチンの効果の差を見たものです。特に有効性に差は認められておりませんが、特にワクチン群では感染者が少ないので評価がしきれない部分もあると思います。

 

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こちらは16歳から55歳までの副反応を示したスライドです。上が1回目接種後7日以内、下が2回目接種後7日以内の副反応です。

左側のLocal Events(局所反応)では、先ほども紹介したように注射部位反応が高確率で発生しております。また、左側のSystemic Events and Use of Medication(全身性の副反応と薬剤の使用)では、疲労や頭痛の他に悪寒、筋肉痛等も多く認められております。

また、1回目より2回目の方が副反応の発現率が高まっていることも分かるのではないかと思います。

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こちらは同様に55歳以上の副反応を示したスライドです。

16-55歳と同じような傾向が言えると思います。ただ、55歳以上よりも16-55歳の方が副反応の報告割合が多くなっていることも分かるかと思います。プラセボへの反応も若年者の方が多いですね。

 

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次はファイザーワクチンでのアナフィラキシー反応についてです。

これも報道でかなり話題になっておりましたし、不安視していた方もいらっしゃいました。

こちらの報告によると、189万回の接種で21回のアナフィラキシー反応が報告されており、100万回に11.1回という頻度です。一般的なインフルエンザワクチンは100万回に1回と言われておりますのでそれに比べれば多い印象ですが、おそらくは初めてのワクチンということでしっかりと副反応が報告された結果、やや多く報告があったのではないかと思います。ちなみに、モデルナのワクチンは400万回で10回、つまり40万回に1回の報告があったようです。

報告された21人は4人が入院したものの、経過が分かっている全員が軽快しているようです。アナフィラキシーによる死亡は報告されていません。

また接種後15分以内に多くのアナフィラキシーが発症しており、そのうちの多くは何かしらのアレルギー歴があったようです。

残念ながらどのような薬でもアナフィラキシーは起こりえますが、この10万分の1というのはさほど大きな数字ではないのではないかと思います。アレルギー歴のない方はさほど気にする必要はないですし、アレルギー歴のある方でも特別な注意が必要というわけではなく一般の薬を使う時と同じ感覚でよいのではないかと思います。

※アナフィラキシーの割合については日々更新されております。10万分の1から100万分の1くらいで収束するのではないかと推測しております。

さらに今回のワクチン接種時には、接種後の15-30分後の観察等のアナフィラキシーに対する対応が十分に行われると思われますので、過度に不安視する必要はないと思います。

以下の堀向先生の記事がすごく分かりやすかったので、ご参考にされてください。

 

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こちらはそのアナフィラキシー反応が起こった方の詳細です。

若年者が多い事、女性が多い事が少し気になるところです。

アレルギー歴は様々ですが、薬剤師としてはサルファ剤が4名と目立っている気もします。

 

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さて、「現在までに分かっていること」を一枚のスライドにまとめました。

今までお話したとりです。

 

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こちらは「現在までに分かってないこと」のまとめです。

治験から除外されていた16歳未満、妊婦・授乳婦、免疫抑制状態に対する効果・安全性は分かっておりませんし、高齢者やアジア人でのデータは少ないです。

無症候性のCOVID-19感染を減らすかどうか、他人への感染を減らすかどうかも分かっていません。効果の持続期間や長期間経過後の副反応も分かりません。

変異株への効果は少しずつ報告が出てきていますが、まだはっきりとはしていない印象です。ただ現状では変異株の感染例はまだ少なく、まずは現在のワクチンを接種することを推奨します。

 

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まだ答えていない質問に答えていきましょう。

退職後・転職後の接種方法:3月と言うことでちょうど中途半端な時期ですが、まだどうなるかは分かりません。

毎年接種が必要になるのか:分かりません

子供・高齢者・持病のある人:子供はしばらく接種ができないでしょう。高齢者は罹った場合のリスクが高いので接種した方がよいでしょう。持病のある人も悪化した際のリスクがあるので接種した方が良いと思いますが、可能であれば主治医と相談してください。

副作用の保障、日本製じゃないと不安:後述します

ノルウェーでの死亡者の報道:報道の記事を最後までよく読んでみると、「因果関係は分からない」と書かれております。死亡との関連は分かりませんが、急に死者が増えたわけではないようです。

治療薬:期待しないでください

任意接種ですか?:任意接種です。ただし、接種しない場合は「接種しないリスク」があることを十分に理解しておいてください。接種する人よりも明らかに発症リスクが高まりますし、旅行などで接種していないことが不利に働くケースも今後出てくるかもしれません。

 

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副作用の保障ですが、こちらの「予防接種後健康被害救済制度」が利用できます。こちらは健康被害を受けた方自身が請求しないといけませんので、必要な際は申し出てください。ただし、審査の結果で認められた場合のみ給付がありますので、必ずしも給付されるわけではありません。

 

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こちらが最後のスライドです。

日本製のワクチンの開発状況ですが、アンジェスが一番進んでおり、次が塩野義です。

ただし、あと1年くらいはかかると思います。

また治験の対象者は紹介したファイザーのワクチンは4万人が対象でしたが、それほど多くの人数を集められない可能性が高いと思います。

 

 

 

【前編】はこれで終わりです。

【後編】では「ワクチンに関するメディアとの付き合い方と講義を終えての感想」を書いていきます。

 

 

 

今回は以上になります!

参考になれば嬉しいです!