久しぶりになってしまいました。
私の住む町では、月に1回医療介護関係者やその周辺の方々が集まって「健康カフェ」を開催しております。
その8月のテーマが「フレイル」でした。
分かっているような分かっていないような…
似たような概念で「ロコモティブシンドローム」、「廃用症候群」、「サルコペニア」もあります。
どれも最近よく聞く言葉ですが、違いがよく分からなかったので、調べてみました。
ロコモティブシンドローム(運動器症候群): 2009年に日本整形外科学会が提唱。 運動器の障害による移動機能の低下した状態。筋肉、骨、関節、軟骨、椎間板といった運動器のいずれか、あるいは複数に障害が起こり、「立つ」「歩く」といった機能が低下している状態をいい1)。例えば「階段を上るのに手すりが必要である、15分くらい続けて歩けない、片足立ちで靴下がはけない、横断歩道を青信号で渡りきれない、家のなかでつまずいたり滑ったりする」場合などが含まれる。2)
廃用症候群:身体の不活動によって引き起こされる二次的な障害の総称・廃用によっておこる様々な症状をまとめたもの。どの疾患があるから、何日寝たきりだったから廃用症候群に該当する、というような具体的な指標はありません。3)
サルコペニア:1989 年、Irwin Rosenbergによって、年齢と関連する筋肉量の低下を「サルコペニア」(ギリシャ語で筋肉を意味する
「sarx」と喪失を意味する「penia」)と提案された。それ以来,サルコペニアは加齢に伴って生じる骨格筋量と骨格筋力の低下として定義されてきた。サルコペニアには複数の要因があり,例えば,生涯にわたる老化の過程,幼少期における発育・発達の影響,不適切な食習慣,寝たきりや不活発な生活スタイル,慢性疾患や特定の薬物療法などが
挙げられる。また,サルコペニアは身体的な障害と健康障害の状態につながる.つまり,運動障害,転倒・骨折の危険性の増大,日常生活の活動能力(ADL)の低下,身体障害,自立性の喪失,および死亡する危険性の増大などである。4)
フレイル: 高齢期に生理的予備能が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し、生活機能障害、要介護状態、死亡などの転帰に陥りやすい状態で、筋力の低下により動作の俊敏性が失われて転倒しやすくなるような身体的問題のみならず、認知機能障害やうつなどの精神・心理的問題、独居や経済的困
窮などの社会的問題を含む概念である。しかしながら、この概念は多くの医療・ 介護専門職によりほとんど認識されておらず、介護予防の大きな障壁であるとともに、臨床 現場での適切な対応を欠く現状となっている。平成26年5月日本老年医学会が提唱 5)
ざっと書いてみましたが、結局よく分かりません。。。(廃用症候群は他とは少し異なっているように思いますが。)
別々の学会や人が提唱しており、定義が明確でないので仕方ないのかもしれませんが。重複している概念もありそうですし。
これを調べている段階で、運動器不安定症とか老年症候群とかも出てきましたし、素人にはこれらの言葉の乱立は理解に苦しむところではあります。
こういう言葉は、ある特定の集団をまとめてグループにしたい時やその患者さんのおおまかな状態を知るのには良いと思います。しかし、その中でもそれぞれの人によって少しずつ状態は違うわけですので、言葉に捕らわれすぎないようにしないといけません。
これは何かに似ている…と思ったら、うちの業界の「ポリファーマシー」ですね。
いつからかどこからか「ポリファーマシー」がやってきました。
明確な定義はなく、「5剤以上の併用」や「他剤併用」や「不適切処方」のように理解されています。
そしてポリファーマシーへの介入方法が議論されるようになり、「薬剤総合評価調整加算」なるものができました。
先日の医療薬学会でも「ポリファーマシー」関連の発表が盛り上がっていました。
でもなんか違う気がします。
いつの間にか「ポリファーマシー」という言葉に捕らわれ過ぎていたのかもしれません。
概念よりも大切なことがあるはずです。
Pharmacist Magazine 特集コラム「薬学関連用語についての考察」で、アップル薬局の山本雄一郎先生は以下のように書かれています。
最近ではポリファーマシーという概念が登場し、コンプライアンスやアドヒアランスといった言葉によって思考停止状態に陥ることが少なくなってきたのかもしれません。では、ポリファーマシーという概念を中心に据えて、ただ薬の数を減らせばいいのでしょうか。これもそうではありません。薬の数を減らせば、その患者は幸せになるのでしょうか。それでは、集学的治療といった概念ではどうでしょうか。もうわけがわからなくなってきました。それは言葉だけで考えているからです。そういった概念に振り回されて、患者を診ていないからです。
新しい概念を学ぶことはいいことです。しかし、使いこなせないのならいっそ使わないのもひとつの手です。そして、注目してほしいことがあります。それは、概念そのものよりもその背景、そういった概念が求められるようになった背景です。そこにこそ薬剤師に求められていることが見え隠れしているからです。
また、青島周一先生はご自身のブログ「思想的、疫学的、医療について ポリファーマシー問題…問題が問題なのかもしれない。」」にて、このように書かれています。
問題なのはポリファーマシーを問題化してしまったところにあるのではないか。僕たちの仕事は多分こういうことではなくて、患者個別により妥当な薬物治療を模索することだけではないか。ポリファーマシーが問題なのではなく、その問題が問題なのではないか。問題の複雑性を解体していくことこそが、この問題の唯一の解決策なのかもしれない。複雑性をどう解体するか、そのプロセスのなかに大切なことがあるように思う。
今後も時代の変化に伴い、新しい概念や言葉は出てくると思います。ただその時、それに捕らわれ過ぎず、本当に大切なことを忘れないようにしていかないといけないのではないかと思います。
最後に、真田丸の真田昌幸の名言より。
(http://dobashin.exblog.jp/23265991/より拝借しました。)
1)ロコモチャレンジ!日本整形外科学会公認ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト https://locomo-joa.jp/
2)日本整形外科学会 https://www.joa.or.jp/jp/index.html (「運動器不安定症」ついても書いてあります。あちらは保険収載がある病名ですね。)
3)WELQ ココロとカラダの教科書「体の機能が低下していく廃用症候群を予防しよう!原因となる病気や症状からリハビリ方法まで」https://welq.jp/12915 (廃用症候群のことが丁寧にまとめてありました。)
4) サルコペニア:定義と診断に関する欧州関連学会のコンセンサスの監訳とQ&Ahttps://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/pdf/sarcopenia_EWGSOP_jpn-j-geriat2012.pdf
5)フレイルに関する日本老年医学会からのステートメントhttp://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/pdf/20140513_01_01.pdf