リンコ's diary

田舎の地域医療を志す薬剤師

第67回エビデンス展覧会(略して、エビテン!)(2024.2.21)(テーマ:心不全)

こんにちは!リンコ(@manabunoda)です!

第67回エビデンス展覧会(略して、エビテン!)の開催報告です。

 

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録音はこちらからどうぞ↓

 

今回のテーマは「心不全」でした。

 

 

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1人目は@たけちゃん

Estimating lifetime benefits of comprehensive disease-modifying pharmacological therapies in patients with heart failure with reduced ejection fraction: a comparative analysis of three randomised controlled trials

Lancet . 2020 Jul 11;396(10244):121-128.

PMID: 32446323

こちらは、ファンタスティックフォー(β遮断薬+SGLT2-i+MRA+ARNI)の使用が従来薬(βブロッカー+ACEi/ARB)と比較して心血管死または心不全による初回入院への有効性を評価するために3つの試験を解析した試験です。3つの試験としては、EMPHASIS-HF(エプレレノン vs プラセボ)、PARADIGM-HF(ARNI vs エナラプリル)、DAPA-HF(ダパグリフロジン vs プラセボ)の3つのRCTが含まれております。

結果としては、ファンタスティックフォー群の方が従来薬群と比べて、心血管死+心不全入院の複合アウトカムを大幅に減少させました(HR 0.38;95%CI:0.30-0.47)。それぞれの個別のアウトカムおよび全死亡率も改善が認められております。また、心血管死や心不全による初回入院のない期間が2.7年(80歳)〜8.3年(55歳)、生存期間が1.4年(80歳)〜6.3年(55歳)延長するとの推定も報告されております。

やはりファンタスティックフォーは重要と感じる一方、キャスでも話しましたが、なかなか4つが揃うことを見る機会がないと感じております。それぞれの薬剤には避けられない副作用がありますので、なかなか難しいと感じております。

今回の試験では、比較群がβブロッカー+ACEi/ARBで妥当なのか(なぜMRAが入ってないのか)ということ、またEMPHASIS-HFは2011年の試験でありSGLT-2iを服用してる患者がいたのかどうか(なぜこの試験を選んだのか…)ということが気になるところです。

 

 

2人目は@リンコ

Effect of intravenous iron replacement on recurrent heart failure hospitalizations and cardiovascular mortality in patients with heart failure and iron deficiency: A Bayesian meta-analysis

Eur J Heart Fail . 2023 Jul;25(7):1080-1090.

PMID: 37062867

こちらは、心不全+鉄欠乏症患者における心不全再入院と心血管死亡率に対する静注鉄補給の効果を評価したRCTのメタ解析です。

個々のRCTでは有効と結論づけることはできない結果でしたが、それらをメタ解析した報告となっております。対象となった静注鉄は、フルボキシマルトース(フェインジェクト🄬)とデルイソマルトース(モノヴァー🄬)です。

結果としては、心不全の再発入院率と心血管死の複合アウトカムにて、RR 0.73(95%CI:0.48-0.99)と有意に減少しておりました。サブグループ解析では、性別や年齢、各種貧血の数値などによる差は認められませんでした。

95%信頼区間の上限ギリギリでの有意差ですが、信頼区間が広いので、ある程度信頼できるのかなとも感じています。フェイジェクト🄬やモノヴァー🄬が登場してきて投与方法としての利便性は向上しましたが、未だに静注鉄の適応が「経口鉄剤の投与が困難又は不適当な場合」ですので使いにくいんですよね。経口鉄剤は心不全への有効性が示されてませんし。

本文中に記載されておりましたが、現在静注鉄に関する2つのRCTが進行中とのことですので、有効性が示され、また保険適応的にも使いやすくなることを期待しています。

 

 

こちらは、心不全患者の一人暮らしが臨床アウトカムに与える影響を評価した試験のメタ解析です。7件の研究が含まれており、うち1件が日本の研究です(PMID:33191359)。

結果としては、30日後、90日後、1年後のいずれの追跡間においても、心不全入院は一人暮らし群で有意に増加しておりましたが、死亡には影響がありませんでした。

ただ、全体的にサンプルサイズが小さく、7件中4件で被験者の年齢が分からなかったりと、質はあまり高くないかもしれないとのことです。

心不全は、内服や食事、その他生活する上で管理しないといけないことが多いので、1人暮らしがリスクとなることは納得です。30日後より1年後の方がHRの数値が小さいのは、その理由が気になるところですが。死亡への影響については信頼区間の幅がかなり大きいので、サイズが大きくなれば結果が変わるかもしれません。

今回の論文はあまり質が高くない可能性がありますので、規模の大きな質の高い研究が出てくることを期待したいです。

 

 

    • 4人目は@猫になりたい薬剤師

      Effect of Sacubitril/Valsartan vs Valsartan on Left Atrial Volume in Patients With Pre-Heart Failure With Preserved Ejection Fraction: The PARABLE Randomized Clinical Trial

      JAMA Cardiol . 2023 Apr 1;8(4):366-375.
    • PMID: 36884247

      こちらは、pre-HFpEF患者におけるサクビトリル/バルサルタンとバルサルタンの左心房容積への影響を比較したRCTです。本文によると、pre-HFpEFは、いわゆる心不全のstage Bの段階のことを指すようです。

    • 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017改訂版)には左房容積係数(LAVI)についての記載があり、「左房拡大は、拡張能障害に基づく慢性的な左房負荷を反映すると考えられ、拡張能障害の程度と相関し、心不全患者ではLVEFの低下がなくても拡大がある」とのことで、LAVI>34mL/m2がHFpEF患者における拡張能障害の診断基準の一つとなっているようです。
    • さて結果としては、最大LAVIにおいてはサクビトリル/バルサルタン群の方がバルサルタン群と比較して有意な増加が認められましたNTpro-BNPの結果は、薬剤の特性上自明なのかなと思います。一方で、主要有害心血管イベント(MACE)はサクビトリル/バルサルタン群で大幅に減少しておりました。ただし、MACEの減少はあくまでも副次評価項目であり、症例数も限られており解釈に注意が必要です。
    • Discussionにも記載されておりますが、LAVIは一般的には予後悪化の因子です。にもかかわらずMACEは減少傾向にあったのは引っかかるところです。詳しくはDiscussionをご覧ください。
    • 全体的に解釈が難しい結果な気がします。pre-HFpEFにどこまで介入するのかは悩ましいところです。この試験だけでは分からないことがたくさんありますので、続報を待ちたいと思います。

@猫になりたい薬剤師のブログでの解説

 

 

5人目は@にいやん

Sodium Restriction in Patients With Heart Failure: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Clinical Trials

Circ Heart Fail . 2023 Jan;16(1):e009879.

PMID: 36373551

こちらは、心不全患者への塩分制限の有効性を検討したRCTのメタ解析です。

1日の塩分制限の量は研究によって異なりますが、Na量として2-3g程度の研究が多いようです。NaClとしては5-7g程度になるでしょうか。現在の日本のガイドラインは6g未満となっております。

結果としては、塩分制限による死亡や全入院、心不全関連入院への影響は認められませんでした。ただ、両群合わせて1,700人程度であり、信頼区間が広いことからも、症例数が少なかった可能性がありそうです。また、QOLを改善する可能性があるとの記載もあります。

気になって色々調べてみましたが、塩分制限のエビデンスはあまり明確ではないようですね。最近はさらに1日の塩分量を減らしての研究も散見されています。

日本人の塩分摂取量は10g/日程度と言われておりますので、6g程度に減らすことには意味がありそうですが、どうですかね。ただ、キャスでも話しましたが、高齢者は食事摂取量自体が減りがちですので、あまり気にしなくてもいいようにも思います。

 

 

6人目は@程々な薬剤師

Effect of Vericiguat vs Placebo on Quality of Life in Patients With Heart Failure and Preserved Ejection Fraction: The VITALITY-HFpEF Randomized Clinical Trial

JAMA . 2020 Oct 20;324(15):1512-1521.

PMID: 33079152

こちらは、HFpEF患者におけるベルイシグアトのQOLへの影響をプラセボと比較した第Ⅱ相RCTです。先に行われた探索的研究(SOCRATES-PRESERVED study)にて、QOLの改善が示唆されたため、その追試の意味合いのようです。

ベルイシグアトは、HFrEFに対しては心血管死と心不全入院の複合エンドポイントにおいて有意な効果が認められており、2021年に薬価収載されております。

今回、QOLの評価にはKCCQ「カンザスシティ心筋症質問票」が使用されております。合計スコアは0~100点で、スコアが高いほど健康状態が良好であることを示します。(参考:KCCQ | QOL | 評価・フォローアップ | 遺伝性ATTRアミロイドーシス(FAP).jp)

さて結果としては、ベルイシグアト10mgおよび15mgの両群において、プラセボと比較してKCCQのPLSスコアの変化量に有意差はありませんでした。また、副次評価項目である6分間歩行距離の変化も同様に有意差は認められませんでした。

探索的研究で効果が示唆されていても実際に主要評価項目としてRCTをやってみると上手くいかないことは往々にしてありますので、副次的評価項目の扱いは慎重に行わなければならないことを再認識しました。やはりHFrEFへの介入は難しいですね。。。

 

 

今回は以上になります!

参考になれば嬉しいです!

 

次回は3/13(水)22時より、「フリーテーマ」にて配信予定です。

よろしければご視聴くださいませ!

 

 

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