リンコ's diary

田舎の地域医療を志す薬剤師

第68回エビデンス展覧会(略して、エビテン!)(2024.3.13)(フリーテーマ)

こんにちは!リンコ(@manabunoda)です!

第68回エビデンス展覧会(略して、エビテン!)の開催報告です。

 

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録音はこちらからどうぞ↓

 

 

今回は「フリーテーマ」でした。

 

 

今回のメニューはこちら

 

 

1人目は@程々な薬剤師

Evaluation of Voiding Position on Uroflowmetry Parameters and Post Void Residual Urine in Patients With Benign Prostatic Hyperplasia and Healthy Men

Am J Mens Health . 2020 Jul-Aug;14(4):1557988320938969.

PMID: 32660326

こちらは、前立腺肥大症患者と健常男性における排尿姿勢が尿流測定パラメータと排尿後残尿に及ぼす影響を評価した横断研究です。

第24回エビテンにて同様の試験のメタ解析を@程々な薬剤師が紹介してくださっていました(第24回エビデンス展覧会(略して、エビテン!)(2020.7.15)(フリーテーマ) - リンコ's diary)。今回は、新たな研究が発表され、参加者数も多めだったようです。

結果としては、前立腺肥大症の患者においては最大流量、排尿量、平均流量、排尿量のアウトカムにおいて、座位での排尿の方が立位での排尿の方が有意で有意差がついており、立位での排尿が優れておりました。一方、健康な男性においてはどのアウトカムにおいても有意差はついておりませんでした。

前回紹介してもらった論文と同じような結果となりました。やはり影響はありそうですね。排尿障害で悩んでいる方がいらっしゃった場合は、排尿姿勢を聞き取ってみるのもいいかもしれません。ただ、立位が困難な方もいらっしゃるので、アドバイスする時は注意が必要です。

 

 

2人目は@リンコ

Respiratory Syncytial Virus Prefusion F Protein Vaccine in Older Adults

N Engl J Med. 2023 Feb 16;388(7):595-608.

PMID: 36791160

こちらは、GSK社製のRSVワクチンの高齢者への有効性を評価したRCTです。アレックスビー🄬筋注用として先日発売になっております。接種費用に関しては25,000円程度と言われております。

アウトカムとしては、RSV関連下気道疾患(LTRD)とRSV関連急性呼吸器感染症(ARI)が設定されておりますが、簡単に言うとそれぞれ症状が3つ以上、2つ以上である状態を指します。RSVにシーズン前に接種し、1シーズンの結果を見ております。日本では27週前後に毎年ピークがやってきます。どうやら小児のRSV感染は、小児であれば抗原検査ができるようですが、成人はウイルスの排出量が少ないため、同定にはPCRが必要なようです。

さて結果としては、LTRDに対するワクチン有効率は82.6%、ARIに対しては71.7%となりました。発生率を見ると、プラセボ群でもそれほど多くない印象です。

副反応については、ワクチン群で局所反応としての疼痛が多く認められ、また頭痛、疲労、筋肉痛、関節痛も多く認められました。

有効性は十分にありそうですが、発症率と費用を考慮すると、接種するかしないかは悩ましい選択だと感じます。今回の研究は1シーズンだけでしたので、これが数シーズン効果が続くのであれば、接種を勧めやすくなると考えています。(先日、2シーズン目の結果が報告され、追加接種の有効性はなさそうで、また効果は減弱傾向のようです。(PMID:38253338))

日本からの費用効果分析の報告も出ておりますが、50%の接種を前提としているので解釈に注意が必要かもしれません(PMID:38426479)。

また、ファイザー社製(PMID:37018468)、ヤンセン社製(PMID:37691161)、モデルナ社製(PMID:38091530)のRSVワクチンの臨床試験もすでに報告されておりますので、今後は複数社からの発売となるかもしれません。

<その他参考資料>

RSV感染症:感染症発生動向調査(IDWR)(※IDWR速報記事に過去数年の定点報告件数推移あり)

・成人・高齢者におけるRSウイルス感染症の重要性(IASR Vol. 35 p. 147-148: 2014年6月号)

・高齢者のRSウイルス感染 (IASR Vol. 39 p212-213: 2018年12月号)

・RSウイルス感染症 2018~2021年 (IASR Vol. 43 p79-81: 2022年4月号

 

 

こちらは、大うつ病性障害におけるシタロプラムの併用療法としてのエンパグリフロジンの有効性をプラセボと比較した二重盲検RCTです。

インスリン抵抗性とうつ病の急性エピソードの関連が報告されており、DM薬としてメトホルミンやピオグリタゾンの有効性が示唆されていることから、SGLT2-iも評価されるようになったようです。その後、いくつかの試験の結果を経て今回の研究が行われております。評価指標としては、ハミルトンうつ病評価尺度(Hamilton Depression Rating Scale:HDRS)が使用されております(参考:【専門家が解説】HAM-D(ハミルトンうつ病評価尺度) - 【公式】田町三田こころみクリニック|内科・心療内科・精神科)。

さて結果としては、エンパグリフロジン群でプラセボ群と比較してHDRSスコアに有意化改善が認められております。特に8週時点では、プラセボ群も含めてちょっとスコアが減り過ぎな気もしますが…

この機序としては、本文中では低Na血症との関連がメインで取り上げられておりますが、そんなに低Naが起きて、症状に影響を与えるのかな…という印象です。また、@zuratomo4が紹介されていたオードファジー仮説の関わりもあるかもしれません。紹介された論文を読みましたが、理解が追い付かず…(Targeting autophagy to counteract neuroinflammation: a novel antidepressant strategy)。

まだまだ規模の小さな研究ですので、続報を待ちたいと思います。効果が認められたとしても、あくまでも補助的な薬剤としての位置づけですかね。

 

 

    • 4人目は@にいやん

      Use of SGLT2 Inhibitors vs GLP-1 RAs and Anemia in Patients With Diabetes and CKD

    • JAMA Netw Open . 2024 Mar 4;7(3):e240946.
    • PMID: 38436955

      こちらは、2型糖尿病およびCKDステージ1~3の患者において、SGLT2iとGLP-1 RAの貧血発生率を比較した後ろ向きコホート研究です。主要アウトカムは、貧血イベント発生(Hb値<12~13g/dLまたICD-10CMコード)または貧血治療開始を含む貧血アウトカムの複合となっております。

    • 結果としては、SGLT-2i開始群にて複合貧血アウトカム発生のハザード比が有意に低下しております。NNTは55のようです。内訳としては、貧血イベントでは有意な減少が認められましたが、貧血治療開始に有意差はありませんでした。
    • 追跡期間の中央値は2.5年であり、Table.2では3年後まで追跡がなされていますが、全体としてはSGLT-1のHb値が変わらないのに対して、GLP-1RAは減少傾向にあります。追跡期間を延ばせば、貧血治療開始にも差が出るかもしれません。
    • この理由としては、SGLT-2iにEPO産生増加作用があるようですが、詳しいことは書かれておりませんでした。水分量が減少するからという単純な理由ではないようです。
    • コメントで、ダパグリフロジンで赤血球生産が促進、鉄動員と利用が増加する報告を教えてもらいました(PMID:35971840)。

CKD患者への適応が通っておりますので、貧血改善の効果があるのであれば、一石二鳥な感じで、より適応の幅が広がりそうですめ。

 

  •  

5人目は@猫になりたい薬剤師

Association Between Vonoprazan and the Risk of Gastric Cancer After Helicobacter pylori Eradication

Clin Gastroenterol Hepatol . 2024 Feb 13:S1542-3565(24)00165-4.

PMID: 38354970

こちらは、ボノプラザンとピロリ除菌後の胃がんリスクとの関連性を評価した後ろ向きコホート研究です。ボノプラザンの対象薬としてはH2RAが設定されております。

これまでの研究では、PPIの胃癌リスク上昇を示唆するメタ解析で報告されております(Association between proton-pump inhibitors and the risk of gastric cancer: a systematic review with meta-analysis)が、P-CABに関しては報告がありませんでした。

結果としては、H2RAと比較してボノプラザン群で胃がん発生率の有意な上昇が認められました。また、PPIとボノプラザンとの比較に関しては、感度分析の結果差はなかったとのことです。

アブストラクトのみしか読めておりませんので、全体的に詳細が分からないのは残念ですが…

P-CABに関しては長期的なリスクの報告はあまり聞いたことがありませんでしたが、胃癌の発生率に関してはH2RAよりも発生率は高く、PPIと同等ということが示唆されました。どの薬もそうですが、適正使用が重要ですね。ほぼ倍になるので、リスクは低くないように思います。

研究を報告した東大病院からプレスリリースが出ておりますので、リンクを貼っております→プレス発表|東京大学医学部附属病院

@猫になりたい薬剤師のブログでの解説↓

 

 

6人目は@たけちゃん

Dapagliflozin versus empagliflozin in patients with chronic kidney disease

Front Pharmacol . 2023 Aug 4:14:1227199.

PMID: 37601066

こちらは、CKD患者におけるエンパグリフロジンとダパグリフロジンの腎イベントおよび心血管イベントの予防における有効性と費用を比較した研究になります。エンパグリフロジンはEMPA-KIDNEY試験、ダパグリフロジンはDAPA-CKD試験の結果が流用されております。

結果としては、aNNT(年間治療必要例数)はどちらも42で同じとなり、CNT(1つのアウトカムを予防するのに必要な治療費)は20万ドル程度となりました。20万ドルが高いのか安いのかは正直よく分からないですね…

また、糖尿病の有無での比較では、糖尿病あり群においてエンパグリフロジンの方がCNTは大幅に低くなる傾向があり、アウトカム別では慢性腎臓病はエンパグリフロジン群、心血管疾患や死亡率ではダパグリフロジン群で低くなる傾向がありました。

そもそも全く別々の研究を、このように比較してもいいのかが疑問ではありますが…

でも確かに、エンパグリフロジンの糖尿病患者への有効性は他の薬剤の研究よりも大きい傾向がありましたので、糖尿病患者へは有効なのかもしれません。

CNTという概念はこの論文で初めて知りました。一般的なRCTあれば費用まで検討することはあまりありませんが、この研究のように費用まで算出すれば、それぞれの治療への費用対効果が推算できますね。

 

 

今回は以上になります!

参考になれば嬉しいです!

 

次回は4/17(水)22時より、「テーマ:副作用」にて配信予定です。

よろしければご視聴くださいませ!

 

 

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