先日、薬剤師会の研修会にて原子力防災に関する研修会が開かれました。内容は安定ヨウ素剤の事前配布および緊急時の配布についてが主だったものでした。
我が福井県は、原発とともに歩んでいる自治体です。東日本大震災では、福島原発に影響が及んでしまいました。そして、その時配られるべきだった安定ヨウ素剤が適切に配られなかったという事実があります。
議論がしつくされておらず、まだまだ改善する余地はあるとは思いますが、今後実際に説明会が始まると、少しずつクリアされていくのかなと感じます。
以下に研修会の内容をまとめていきます。
・区分別の配布の対応
…PAZ(5km圏)内:事前配布(3歳未満、服用不適者には事前配布しない)
PAZ(5km圏)外:避難や屋内退避の際に配布
・配布方法
…事前配布:住民への説明会を開催し、受領書を提出した住民に配布。
説明会に参加できない住民は、代理での配布も可。
3年ごとに更新。
説明会は医師、薬剤師、保健師等にて開催する。
薬剤師や保健師が問診をし、問題がなければ配布、問題ある人のみ
医師の診察を受けてもらう形でもOK。
緊急配布:避難経路上の公共施設等で配布。
・服用回数:原則1回。連続服用は、規制委員会が判断した場合のみ。
・服用量
|
ヨウ素量 |
ヨウ化カリウム量 |
新生児 |
12.5mg |
16.3mg |
生後1か月以上3歳未満 |
25mg |
32.5mg |
3歳以上13歳未満 |
38mg |
50mg |
13才以上 |
76mg |
100mg |
*3歳未満は液剤。3歳以上13歳未満は丸薬1錠、13歳以上は丸薬2錠。
**40歳以上は服用してもいいが、効果の期待度は低い。(甲状腺がんの発症リスクは年齢とともに減少するが、高齢者でも残存するとの懸念がある。一方、副作用が生じる可能性は年齢が上がるとともに増加するとの報告もある。)
・安定ヨウ素剤内服液の調整例
① ヨウ化カリウムの原薬81.5gを正確に秤量し、注射用水を用いて溶解し、500mLとする。
② 注射用水2,000mLをはかり取り、ポリ容器へ入れて混和する。
③ 単シロップ2,500mLをはかり取り、ポリ容器へ入れて混和する。
④ スポイト等にて分注する。(新生児:1mL、生後1か月以上3歳未満:2mL、3歳以上13歳未満:3mL、13歳以上:6mL)
・効果
…揮発性ヨウ素(I131)にしか効かない。
他の放射性物質には無効。
甲状腺障害(甲状腺がん、甲状腺機能低下)を予防するのみ。
・内服の時間帯による効果
…揮発性ヨウ素発生前:98%以上抑制できる。
発生後3時間:50%の予防効果あり。
12時間以降:ほぼ無効
・服用できない人(禁忌)
…ヨウ素アレルギー
・慎重投与
…ヨード造影剤アレルギー
甲状腺疾患
腎疾患
先天性筋強直症
高K血症
低補体血症性蕁麻疹様血管炎
肺結核
ジューリング疱疹状皮膚炎
・併用に注意を要する薬剤
…K含有製剤、K貯留性利尿剤、エプレレノン、ACE阻害剤、ARB、アリスキレン
→併用により高K血症をきたす可能性があるため。
リチウム製剤、抗甲状腺薬(チアマゾール、プロピオウラシル等)
→両剤とも甲状腺機能低下作用があるため。
詳細は、原子力規制委員会ホームページ(http://www.nsr.go.jp/)より、
「原子力防災」→「原子力防災対策」→「安定ヨウ素剤の配布・服用に関する解説書」
をご覧ください。
7/29「放射線の健康影響と安定ヨウ素剤の服用」に関する研修会
放射線の健康影響
:100mSv以下では健康への影響は認められておらず、同量ではがんリスクの有意な増加は認められていない。
福島住民の99.8%が5mSv以下。ちなみに血小板減少は1000mSv以上にて発現。例の鼻血は起こりえない。
・放射線による甲状腺がんは年齢依存的で、5歳以下の子供、特に乳幼児でリスクが高い。
甲状腺がんは5年目以降に発現しやすい。
子供の甲状腺がんの予後は成人に比べると良い。
・安定ヨウ素剤の服用は24時間前から2時間後までが効果的。
24時間前の服用では90%以上をブロックし、2時間後なら80%をブロックする。
8時間後では40%、24時間後では7%しかブロックできない。
・高齢者の服用について。
従来は40歳までとされてきた。しかし、平成25年原子力規制委員会では、「40歳以上においても甲状腺がんのリスクが残存する可能性」との論文に基づき、服用する。(本人の希望による)
ただし、国際的な評価として定着したものではない。
・過剰投与による影響について
福島第一原発緊急作業員約2,000人のうち、14日以上または20錠以上服用した229人中
3人(1.3%):一過性甲状腺機能低下症→中止にて軽快
⇒長期連用は極力避けるべき。ただ甲状腺機能低下症を来しても、中止にて軽快する。
・授乳婦への投与:乳児は安定ヨウ素剤を服用し、授乳中にヨウ素が分泌され2重にヨウ素を服用することになる為、中止が望ましい。ただし、乳汁からの分泌はごく少量のため、さほど問題ではない。むしろ、緊急時に授乳を中止する方が困難。
・妊婦への投与:胎児の内部被ばくを防止するために、安定ヨウ素剤は服用すべき。
・間違えて倍量を飲ませてしまったら?:微量なので、特に処置等はしなくてもよい。
・内部被ばくには安定ヨウ素剤、外部被ばくには「距離、時間、遮蔽」にて対処
・安定ヨウ素剤がない場合、40歳以上の場合、禁忌等で安定ヨウ素剤が服用できない場合はどうすればいいか?
⇒とにかく昆布を食べる!!出汁でもOK!昆布には要素が豊富に含まれており、安定ヨウ素剤の代替品になりうる、と演者の先生の持論(?)。
・こちらもご参考に→ 「日本医師会 原子力災害における安定ヨウ素剤服用ガイドブック(2014年版)」
ここからは私の個人的な意見。
・カリウム製剤、RAS系降圧剤との併用について
:成人が服用する安定ヨウ素剤(KI)は100mg。KI100mg中に含まれるKは0.6mEq。ちなみにアスパラK300mgには1.8mEq。ということで、単会投与ではたとえ併用しても影響はごくわずかなのではないでしょうか?
慎重投与である腎疾患、先天性筋強直症、高K血症も、カリウムの影響を懸念しているようなので、これもさほど問題ではないと思います。
もし気になるようなら、今回の話を聞く限りでは、昆布を食べれば問題ないようです。