こんにちは!リンコ(@manabunoda)です!
今回読んだのは、
「世界中の医学研究を徹底的に比較してわかった最高のがん治療」
です。
医療情報、中でもがんにまつわる情報は世の中に氾濫しています。みなさんはその中から’正しい’情報かどうかを見分けることができるでしょうか?
インターネット、書籍、メディアといった様々な媒体にそのような情報は存在しています。一時期よりは’正しい’情報が出回るようになってきたように思いますが、まだまだ’怪しい’情報も多いのが現状です。
本書は、医療データ分析の専門家である津川先生(@yusuke_tsugawa)、がん治療に特化した「腫瘍内科医」である勝俣先生(@Katsumata_Nori)、新薬開発の専門家である大須賀先生(@SatoruO)の3名によって書かれております。
みなさんの想いとそれぞれの専門性が存分に活かされた一冊になっていると思います。
本書について、「おわりに」で以下のように書かれています。
この本は、がんに関する「情報のワクチン」です。本書でトンデモ医療情報への免疫をつければ、だまされることは格段に減ると思います。
すでにがんを告知されてしまった方のみならず、現在健康な方にもきっと有益なはずです。この本で得た知識は、ぜひとも家族や友人などの周りの方にも共有してください。情報は、ときに人の命を奪い、また救いもします。病院に来る前に怪しい治療法を信じてしまったがん患者さんの中には、病院に来なくなってしまう方もいます。いくら最高の治療法(標準治療)に保険が適用され、安価に提供されていても、病院に来ない患者さんはその恩恵にあずかることができません。逆に言えば、正しい情報を発信してトンデモ医療情報が広がるのを防げば、被害に遭ってしまう患者さんを救えるかもしれません。正しい医療情報の発信は、このインターネット社会では、もはや医療の一環だと言っていいでしょう。情報を発信すれば、見てくれる方がいます。そして、民間療法に傾倒するのを止めて標準治療に戻ってくれる方が増える可能性があるのです。
まさに「情報のワクチン」として利用可能な書籍だと思います。「ワクチン」という例えで表現されているように、「がん」と診断される前に、騙される前に一般の方に読んで欲しい書籍です。
また、本書ではがんの疫学、治療、食事療法等の様々な論文情報を用いたエビデンスが紹介されており、医療者としてどういった事実をどのようにして患者さんや一般の方に伝えてけばよいのかの勉強にもなり、医療者にも一読をお薦めします。
私自身は病院の特色として抗がん剤等によるがんの治療中の患者さんと接することは少ないのですが、緩和ケアを受けながら終末期を迎える患者さんと接することが時々あります。そんな中で思うのは、十分にがん治療をした患者や医師と十分に話をして納得された患者さんは、納得のいく最後を迎えられているけれど、誤った医療情報を信じてしまった方は、最後まで現状が受け入れられず、納得のいく最期を迎えられていないのではないかということです。そんな光景を見るたびに、医療者としてとても歯がゆい思いになります。
治療への価値観は人それぞれではありますが、本書を読んで、間違った情報に騙されて後悔をする方が一人でも減ればと感じました。
それでは気になった部分をいくつか引用して紹介していきます。
※論文情報に関する部分は、引用文献とpubmedリンクを記載しておきます。
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世の中には、がんに効くとうたっている治療法が何千とあります。保険適用の治療法だけでなく、保険適用にならない最先端の治療法から、がんに効くとテレビで取り上げられる食べ物・飲み物、果ては怪しげな民間療法までさまざまです。もしがんになってしまったら、どの治療法を選べばよいのでしょうか。読者の皆さまは、ぜひ「保険が適用される治療法」(「標準治療」と呼ばれる治療法)を受けてください。実はこれが、最も効果が期待できる最高のがん治療法だからです。
ステージⅡ、Ⅲの乳がん、前立腺がん、大腸がんの患者さんが対象で、標準治療を受けた560人と、代替療法のみを受けた280人の間で生存率を比較しました。その差は歴然で、治療開始から6年が経過した時点での生存率は、標準治療を受けたグループでは75%、代替療法のみのグループでは50%と大きな差が認められました。(中略)標準治療の効果が比較的高い大腸がんでは、その差はさらに大きなものとなっています。大腸がんの患者さんにおいては、6年が経過した時点で、標準治療を受けたグループの生存率は80%なのに対し、代替療法のみのグループは約35%の人しか生存していませんでした。この研究は、標準治療を受けずに代替療法を受けているがん患者さんほど、生存率が低いという事実を明らかにしています。(J Natl Cancer Inst . 2018 Jan 1;110(1). PMID: 28922780)
図表1-4のグラフを見ると、生存期間の中央値が2年のところ、5年以上生存している患者さんが20%(5人に1人)もいることがわかります。これは奇跡と呼べるのでしょうか。もちろん違います。がん治療において、「余命」を大きく超えて生きる患者さんがいることはよくあることであって、奇跡などではありません。同じ治療を受けていたとしても、患者さんの反応はさまざまです。がん治療の効果は、患者さんの年齢や体力、持病、がんの大きさや治療の難しさによって大きく変わります。(千葉県がんセンター研究所がん予防センター「全がん協加盟施設の生存率共同調査 全がん協生存率(2019年2月集計)」)
「標準」と聞くと「並の治療法」だと誤解する方もいるかもしれません。しかし、標準治療は英語のスタンダード・セラピーを日本語訳したものであり、英語の「スタンダード」には「全員が行うべき優れたもの」というニュアンスがあるのです。ですから、「標準治療」ではなく「最善治療」と言い換えたほうがわかりやすいかもしれません。うれしいことに、日本では基本的に標準治療には保険が適用されます。
2010年に世界で最も権威のある医学雑誌の1つ『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』に衝撃的な論文が発表されました。緩和ケアに延命効果が認められたのです。(中略)抗がん剤単独グループの中でうつ症状が認められたのは38%だったのに対し、早期緩和ケアグループは16%だったのです。また、抗がん剤単独グループの生存期間中央値は8・9カ月だったのに対し、早期緩和ケアグループは11・6カ月と2・7カ月延長されていました。(N Engl J Med . 2010 Aug 19;363(8):733-42. PMID: 20818875)
代替療法のうち自由診療とは、一般的にクリニックなどの医療機関で自費で行われている治療法のことを指します。インターネットや本などで「がんが消える」などと派手に宣伝している自由診療が多いですが、がんに有効であるという科学的根拠を証明したものはありません。もしも科学的根拠があるならば、標準治療として保険適用になっているはずです。自由診療は医師がやっているから安心だと信じたくなる方も多いかもしれませんが、残念ながらそうではないのです。
がん患者さんが最も傷つく医師の言葉の1つは「もうできることはない」です。「効果の期待できる積極的治療をすることが難しい」と言いたいのでしょうが、言葉足らずであり、いたずらに患者さんを傷つけてしまいます。積極的治療だけでなく、緩和ケアも標準治療の1つなのですから、その意味で「もうできることはない」と言うことは問題です。こうした医療現場でのコミュニケーション不足が患者さんをがん難民に導き、怪しげな代替療法や医療否定本に走らせる一因になっていると言っても過言ではありません。
食生活によって、がんになるリスクは上がったり下がったりすることが研究からわかっています。ただし、現在健康な人が食生活を変えてがんになるリスクを下げることと、いったんがんになってしまった人が食生活を変えてがんを治すことは別問題ですので、しっかり区別して考える必要があります。結論から先にお話しすると、現在健康な人が、食生活を変えることでがんになるリスクを下げることはできるものの、一度がんになってしまった人が食生活を変えても、がんを治すことはできないと考えられています。
がんと食事の関係についての研究が行われていないからわからないのではなく、多くの研究が行われたうえで、その多くは有効ではないと結論づけられたのです。ちまたにあふれる本がうたっているような「がんが消える食事」は存在しないので、こういった情報に過剰に期待するのではなく、きちんとした標準治療を受けることをおすすめします。
科学的根拠のないがん治療法である民間療法にだまされてしまうのはどんな人なのか、アメリカで研究した報告があります。その結果を見ると、教育レベルと収入が高い地域に住む人ほど、標準治療ではなく代替療法を受けている人の割合が高いことが明らかになったのです。(J Natl Cancer Inst . 2018 Jan 1;110(1). PMID: 28922780)(←Supplementary dataに記載あり)ちなみに、日本人を対象にした研究でも同様の傾向が見られています。(J Clin Oncol . 2005 Apr 20;23(12):2645-54. PMID: 15728227)
基本的に、医療情報にはウソが入りやすい性質があります。なぜなら、ウソであることがわかりにくいからです。内容がとても専門的なので、正しいかどうかの判断が簡単にはできません。それに加えて、すぐに確かめることができないものが多いのです。人ががんになるには長い年月がかかるので、がんの治療・予防についての医療情報の多くは、時間が経ってみないと本当に効果があるものなのか評価できません。「電子レンジを使って食べ物を温めるとがんになる」といったウソがその典型です。
インターネットで好まれて大きく広がる情報には、「目新しい」「斬新」「単純明快」「インパクトがある」「陰謀めいている」などといった特徴があります。たとえば、「早めにがんを見つけて、手術をして、適切な薬や放射線の治療を受けるのがよい方法です。治療内容はがんの種類によって変わります」という直球の正しい解説をしても、この情報はインターネット上でそれほど拡散されないでしょう。なぜなら、これはある程度知られていることであって、目新しいものではないからです。