こんにちは!リンコ(@manabunoda)です!
今回読んだのは
「人は悪魔に熱狂する 悪と欲望の行動経済学」
です。
本書については「おわりに」で以下のように書かれています。
本書は、「マーケティング理論」と「行動経済学」、それに「データサイエンス」を用いて、ヒットした商品・事象・人の背景に隠されている「悪と欲望」を読み解く試みです。
「悪」=「ダメなこと」「許されないこと」だという「イメージ」で捉えられがちですが、人間の心には「悪」が必ず潜んでいて、それを認めない限りは人間を理解しているとは言えないんだ、ということこそ本書でもっとも伝えたかったテーマです。
本書は人間の「悪」の部分に踏み込んで、それを行動経済学的に解説しているのがとてもおもしろかったです。
「行動経済学」といえばノーベル経済学賞を取ったこともあり、近年少しブームが来ているのかなと思います。書籍もたくさん発売されてますね。
私自身はすごく興味を持っている学問で、今までいくつか書籍を読んできました。医療業界では 「医療現場の行動経済学: すれ違う医者と患者」が有名ですね。
その「行動経済学」について本書では以下のように書かれてあります。
そうした人間の意思決定の研究をしているのが行動経済学です。合理的でない人間の心理を究明する点から、行動経済学は「心理学と経済学」(psychology and economics)とも呼ばれています。
伝統的経済学は人間を「思慮深く、ある意味で利己的で、高い計算能力を用いて、あらゆる情報を理解して、最適な意思決定を下せる」と考えています。もちろん、そうした一面もあるでしょうが、大半は「思慮浅く、ある意味で破滅的で、高くない計算能力を用いて、ほとんどの情報を咀嚼できず、バイアスまみれの意思決定を下してしまう」のです。
つまり行動経済学は、合理的な意思決定の限界に着目していると言えます。
正直、今までの行動経済学のイメージとは違いました。しかし、読んでみると「なるほど」と思うところは多かったですし、これはこれで業務に活かせていけるのではないかと感じました。特にこの部分からは、私たちは常に決断を求められる職業ですし、その中でできるだけバイアスを取り除きながら判断を下していかないといけないと感じました。
本書には「新型コロナウイルス感染症」「鬼滅の刃」「ROLAND」「FACTFULNESS」などといった最近の流行のワードがたくさん出てくるので、こういったワードが新鮮なうちに読んだ方がいいと思います!
興味を持たれましたら、ぜひ早めに読まれることをお薦めします!
では、本書の中で気になった部分を3つピックアップします。
〇〈善と悪について〉
人間を熱狂に駆り立てるためには、「善」よりも「悪」や「煩悩」のほうがより重要な要素とも考えられます。
煩悩に負けてしまう心と、負けまいと修行する心。
双方を行き来しながら、悩み苦しんで日々を生きているのが人間なのだと筆者は考えます。
日本企業だけでなく日本社会全体の価値観として、「要領よく進めて苦労を避ける」「手を抜ける場面で楽をする」のは「悪」とされがちで、「いやな出来事があっても耐える」「手を動かして一生懸命頑張る」のは「善」とされがちです。もはや、それが「美徳」なのです。
しかし、そうした日本人の考え方を逆手にとったのが、いわゆる「ブラック企業」です。
「ブラック企業」ではよく「会社の理念」を暗唱させたり、休まない人間を高く評価したりといった手法で、労働者を洗脳します。
「一生懸命働く」や「頑張って勉強する」も人間の本質ではありますが、そうした「キレイごと」は人間の50%でしかありません。人間の「弱さ」や「脆さ」といった「ダメな面」もまた人間の本質なのです。「人間の50%はクズでできている」のです。一方的な「常識」をもって、「人間は真面目に働かねばならない」「人間は努力しなければならない」と決めつけている限り、人間の半分はいつまでたっても理解不能なままです。
なかなか綺麗事だけで済まないですよね。誰にでも「悪」の部分はあると思いますし、それでいいと思います。私自身もクズに近いと思いますし、人の目を気にしながら「善」になったり「悪」になったりしている気がします。でも、その方が人間らしくていいのではないでしょうか。
〇〈日本人の同調圧力〉
まわりの意見がどうあれ、自分が納得しないと気が済まない人、正しいかどうかの根拠や理屈を重視する人は、同調圧力が高いとされる日本社会では浮いてしまいそうですが、偽ランキングに騙されないという点では非常に優秀な人材ともいえます。
(中略)
一方、そうした日本人の性格を踏まえると「ランキング」の「魔力」を活用することは「熱狂」を作り出すうえで必須のテクニックとも言えます。日本人の多数派は事実を確認しないままランキングで順位付けされた結果だけを受け入れがちなのです。
どちらかというと私は疑い深く、同調しない人なので騙されにくいのかなと思います。しかし、ゆえに生きにくさを感じることもあります。上手く「魔力」を活用して「熱狂」を生み出すことは、テクニックとしては有用なことだとは思いますが、これが悪い方に進んでしまうと次の『ニセ科学』への熱狂が生み出されることもありますね。。。
〇〈『ニセ科学』について〉
科学者でもなく、また科学的な知識がない人のなかには、血液クレンジングを受けたあとで偶然体調が良くなったりすると「血液クレンジングのおかげ」のように思ってしまう場合もあるかもしれません。
(中略)
「血液クレンジング」のほかにも、「水素水」「EM菌」「マイナスイオン」「ホメオパシー」など、「効果が検証できない」「科学的根拠がない」と言われる商品が世の中にはまだまだたくさんありますが、これらの商品に一定数のファンが存在していることもまた事実です。
科学的な手続きに基づいていると、客観的な真実を重視するがあまり「効果がないとは言いきれない」といった曖昧な表現になりがちですが、一方「ニセ科学」では客観的な真実をあまり重要視していないので、「確実に効果がある」という断定口調を取りがちです。
もっとも「あいまいな口調」より「断定口調」のほうが消費者には好まれる現実もあるため、(中略)人々を「熱狂」させる印象があります。
「ニセ科学」は詐欺的商法でもあります。「ニセ科学」を不幸にも信じてしまった人は、いわばカルト宗教にはまった信者のような「被害者」であり、一種洗脳されてしまった人たちであって、その凝り固まった独断と偏見を「正しい科学的知見」によって「啓蒙」しなければならないと思われているのではないでしょうか。
一方「ニセ科学」を信じる人としては、何の悪意もないのに、なぜ信じていることを一方的に批判されるのかが理解できないまま、感情的に反発しているのかも知れません。
「行動経済学」と「ニセ科学」は非常に結びつきが深いと本書を読んで感じました。ほんとに相性がぴったりです。一度「ファン」になり「熱狂」してしまうとそこから抜け出すのは難しそうですね。いかにその前に食い止めることができるかが重要だと思いますし、たとえ迷い込んだとしても、その人を救い出せるように正しい情報を発信し続けていくことも重要なのではないかと思います。
最後に、本書では40個の行動経済学用語が紹介されていますが、そのうちいくつかを引用し、仕事と関連付けてコメントをしていきます。
【確証バイアス】Confirmation bias
自分の仮説を支持する情報ばかり集めて、仮説に反する情報を無視する傾向。自分の見方が正しいと思いたいがために、自分の考えを捕捉してくれる情報を求め、書籍や雑誌、WEB情報ばかり目を通す。逆に、違う見方は「自分を否定するもの」として遠ざけてしまう。
【観察者期待効果】Observer-expectancy effect
仮説に一致するデータばかり探してしまったり、逆に仮説に反するデータを見落としたり、研究者が無意識のうちにデータを誤って解釈する傾向。「こうである」と思い込みが生まれてしまうと、偏った目線でデータを見てしまうのです。
→この二つは似ているのかなと。文献検索したり、研究結果を整理するときは注意しないといけないですね。どうしてもそういたバイアスがかかってしまいがちですので。。。
【心理的リアクタンス】Psychological Reactance
選択する自由を奪われて、他人から強制されると、例えそれが良い提案であっても反発・反抗してしまう傾向。
→抜群の処方提案をした際になぜか拒否されるという薬剤師あるあるですね。あまのじゃく的な…
でも気持ちはなんとなく分かります。否定したくなる時あるんですよね。。。
【バックファイア効果】Backfire effect
信じたくない情報や自説にとって都合が悪いエビデンスに遭遇すると、もともとの信念を変えるよりも当初の信念をより強固に信じるようになる傾向。
→ニセ科学の信者の方が陥りやすいやつですね。一度入り込んだ人に、そうじゃないと伝えていくのは難しいですね。。。
【ナイーブ・リアリズム】Naive realism
自分だけはバイアスに囚われる事なく客観的に物事を見ているというバイアス。自分は客観的に現実を認識しているので、他人も自分と同じように認識できるはずだと思うあまり、他人の認識が自分と異なっているとその人の考え方は不正確で歪んでいる、と感じてしまうのです。
(中略)
つまり「私はバイアスに囚われない」という考え方自体がすでにバイアスに囚われている証拠ともいえるのです。
→そうなんですよね、どれだけ頑張って客観的に見ようとしてもどこかにバイアスは入ってしまいます。バイアスが入ってないと考えてしまえば、もうそれがバイアスですし。これはしっかり理解しておかないといけないと思います。
【ゼロリスクバイアス】Zero-risk bias
ある問題の危険性をゼロにする事を優先し、他の重要な問題をないがしろにする傾向。危険性の割合を1%から0%に減らすためのコストは、100%から10%に減らす場合に比べてはるかに高いのですが、人はコストを度外視してゼロリスクを追求しがちです。
→医療分野ではこの考えはありがちですね。現在流行しているCOVID-19への対策についてもこのゼロリスクバイアスを持ち出されることがあります。でもやはりそれは困難ですので、どこかで妥協点を探さないといけません。
【ダニング=クルーガー効果】Dunning–Kruger effect
能力の低い人物は自身の能力を過大評価する傾向にあり、逆に能力の高い人物は自身の能力を過小評価する傾向にあります。
具体例
学会で「勉強不足で申し訳ありませんが」「基本的な質問で恐縮ですが」と質問する老教授は、相手の無知をやり込めようとしているのではなく、単にダニング=クルーガー効果にかかっている可能性が高いでしょう。
→「行動経済学」の書籍でこんな文章が出てくるとは(笑)どの学問でも同じなのですね。「勉強不足で申し訳ありませんが」「基本的な質問で恐縮ですが」ってで始まる質問をされる方は往々にしてそうではないので、十分な注意が必要ですね。
今回は以上になります!
参考になれば嬉しいです!
あわせてこちらの書籍もどうぞ↓