第23回エビデンス展覧会(略して、エビテン!)の開催報告です。
録音はコチラからどうぞ↓
今回のテーマは「眠剤」でした。
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今回は、@Fizz-DIが初出演、@猫になりたい薬剤師が2回目の出演となりました!
計7名、過去最大の人数にて配信となりました!
おっさん7人の声が入り混じって、誰の声か判別するのか難しかったですね。
さらに猫の友情出演もあり、、、
それでは、まずは@にいやん
Effects of Resistance Exercise Training and Stretching on Chronic Insomnia
Braz J Psychiatry . Jan-Feb 2019;41(1):51-57.
- PMID: 30328967
こちらはストレッチと抵抗運動(軽い筋トレみたいな感じかと思います)の不眠への影響を検討した研究です。いずれも週3回、1回1時間程度を4か月行ったようです。
評価の指標は種々あったようですが、主要アウトカムである不眠重症度指数(ISIS;Insomnia Severity Index score) はコントロール群と比較してストレッチ群や抵抗運動群スコアを改善したようです。本文を読むと他の様々な指標も改善されているようですが、ストレッチと抵抗運動の改善具合は似たようなものなのかなと思います。
抵抗運動はやや負担が大きく感じますが、ストレッチ程度なら取り組みやすいかと思います。睡眠に悩んでいる方へのアドバイスの一つとしては有用なのかもしれませんね。
次は@zuratomo4
J Clin Psychiatry . 1990 Sep;51 Suppl:18-22.
- PMID: 2211560
以前に比べるとトラゾドンの処方を見る機会が増えてきた気がしますが、zuratomo先生もおっしゃっていたように抗うつ薬としてではなく睡眠薬として処方されているケースが多いのではないかと思います。
ただ、あまりその効果を調べた論文は少ないんですよね。今回の論文もn=6ということでかなり少ない人数の試験でした。
トラゾドン、トリムプラミン、プラセボのそれぞれを服用した二重盲検クロスオーバー試験にて睡眠の状態をPSG(睡眠ポリグラフ検査)にて観察したところ、REM睡眠がトラゾドン群で増加傾向、睡眠のStageⅣ(一般的にstageⅠ,Ⅱは浅いノンレム睡眠、StageⅢ,Ⅳは深いノンレム睡眠に分類されるようです)がプラセボ比較してトラゾドン群で有意に増加したようです。トラゾドン群とトリムプラミン群での差はなかったようです。
以上のことから、トラゾドンによって睡眠の質に変化が出ることが示唆されましたが、対象者が少ないので、参考程度の情報になるのかもしれません。
トラゾドンといえば、認知症患者の睡眠状況の改善を目的に処方されることがあり、以前調べたことがありました。よろしければご参考にされてください。こちらも含めて、トラゾドンの睡眠に関する質の高い研究は見当たらないな…という印象ですが。
次は@程々な薬剤師
Diazepam as an Oral Hypnotic Increases Nocturnal Blood Pressure in the Elderly
Aging Clin Exp Res . 2019 Apr;31(4):463-468.
- PMID: 29959667
ジアゼパム5mgとプラセボをクロスオーバー試験にて1日1回夕方に投与したところ、4週間の投与後、24時間BPとHRの平均値は有意な影響がなかったようです。ただ、サブ解析では夜間での収縮期血圧、拡張期血圧、また脈拍がプラセボ群より有意に高くなったようです。
正直イメージとしては血圧や脈拍を下げる気がしていたのでこちらの論文の結果にはちょっと驚きました。ただ、コメントにて紹介していただいた論文にはそうではない論文もありました。以下に紹介しておきます。
今回の議論の結論としては、一時的に血圧はするがHRは上昇し、やがて血圧も上昇するのではないか?ということかと思います。ただ、推測の部分が大きいのでまた機会があれば調べてみたいと思いました。
コメントで紹介していただいた論文たち↓
☆健康なボランティアにジアゼパム5mgまたは生理食塩水を静脈内投与したところ、ジアゼパム投与後、収縮期血圧と平均血圧が有意に低下したが、心拍数は変化しなかった。
(Neurosci Lett . 2004 Jan 23;355(1-2):77-80. PMID: 14729239)
☆3か月以上前からベンゾジアゼピンの処方を受けていた患者は未投与患者と比較して、年齢、性別、糖尿病、降圧薬の服用数を調整すると、外来血圧は有意な低下と関連した。60歳以上と60歳未満に分けた場合、60歳以上の人のみ低下と関連していた。
(Am J Hypertens . 2018 Mar 10;31(4):431-437. PMID: 29077789)
☆21~30歳の健康な被験者を対象に、ジアゼパム5mgまたはプラセボを夜間に4週間投与したところ、24時間平均HRの上昇が認められた(+5.2拍/分、p<0.05)。また、ジアゼパムはBPに影響を与えずに夜間HRを10.1%増加させ(+6.1拍/分、p<0.01)、朝の時間帯では、有意なHR上昇(+4.9拍/分、p<0.05)とSBP低下(-3.8mmHg、p<0.05)が観察された。日中の時間帯ではHRの上昇は持続した(+4.6拍/分、p <0.05)が、BP値は影響を受けなかった。
(Pharmacology . 2018;101(1-2):86-91. PMID: 29131129)
次は@リンコ
CNS Drugs . 2018 Jun;32(6):593-600.
- PMID: 29796977
今回は睡眠薬と自動車運転事故についての論文を取り上げました。
この手の論文、なかなかフリーで読めるものがなく、こちらも本来は読めませんが、PDFがネット上で落ちておりましたので…
さて、こちらの研究はケースクロスオーバー試験が採用されており、その結果ゾルピデム服用にて自動車死亡事故の増加が認められました(aOR 1.48)。またサブ解析では、若年者や新規ゾルピデム開始患者での死亡事故↑が示唆されました。
ゾルピデムといえば女性の方が血中濃度が上がりやすいことは有名かと思いますが、女性の方がクリアランスが35%低下する(PMID: 30939589)ことなどが言われております。しかし本研究では、女性の参加者が少なかったからか解析されておりませんでした。
そもそも睡眠薬系統の薬剤は服用後の運転が禁止されておりますが、なかなか守られていないのも事実かと思います。改めて啓発の必要性を感じたとともに、服用開始時には十分注意喚起しなければならないと感じました。
<参考>
☆ベンゾジアゼピンの半減期に関する山本雄一郎先生の解説→「半減期24時間のユーロジンって、飲むと1日中眠いんですか?」:DI Online
☆ケースクロスオーバー試験に関する青島先生の解説→ケース・クロスオーバー研究を活用した薬剤のリスクアセスメント おなかが緩くなったのは痛み止めのせい?:DI Online
☆私がケースクロスオーバー試験解釈に使用した書籍(第2版が出たんですね!)
次は@Fizz-DI
Proc Natl Acad Sci U S A . 2019 Nov 26;116(48):24353-24358.
- PMID: 31712421
こちらはスボレキサントがブロチゾラムやプラセボと比較して中途覚醒時の安全性が高いかどうかを検討するために、睡眠開始直後に叩き起こし、種々のテストを行ったというなんともユニークなデザインの研究です。ちょっと参加してみたい気もしましたが…
結果は、睡眠薬の効果として、プラセボと比較してブロチゾラムとスボレキサントでは有意に改善(総睡眠時間は30分程度の改善でした)、強制覚醒時の身体的・認知的パフォーマンスとして、ブロチゾラムがスボレキサントやプラセボと比較して有意に低下していたようでした。
さらには、再入眠にかかる時間に関してはプラセボ群で24.3分だったのに対し、ブロチゾラム群では2.1分、スボレキサント群では2.6分という結果でした。これはなかなか驚きましたね。さすが睡眠薬…
今回は若年者を対象とした試験ですので高齢者に当てはめることは難しいかもしれませんが、同様かさらにもっと大きな影響があってもおかしくはないのかなと思いました。まあでも、高齢者でこういった研究をすると骨折等のリスクが大きいので、実施するのは難しいでしょうね。
次は@猫になりたい薬剤師
JAMA Netw Open . 2019 Dec 2;2(12):e1918254.
- PMID: 31880796
こちらは、先日承認されたレンボレキサント(デエビゴ®)の国外の第3相試験です。二重盲検RCTであり、プラセボおよびゾルピデムの徐放錠と比較しております。
結果は、主要評価項目のPSGを用いた持続睡眠潜時でプラセボと比較してレンボレキサントの両群で有意に改善しております。また、副次的評価項目である睡眠効率も改善しておりました。これらはいずれも、ゾルピデムと比較しても有意に改善しているようです。
また副作用としての傾眠がややレンボレキサント群で多いのが気になりました。
レンボキサントはCYP3A4を介しての代謝なので、イトラコナゾールやフルコナゾールとの併用にてレンボレキサントの血中濃度やAUCが大幅に上昇するようなので注意が必要なようです。(スボレキサントより寄与が大きいような気がするのですが、併用禁忌となっている薬剤はないんですね。)
それなりにメリットもあり、デメリットもあり…という結果かと思います。間もなく発売となりますが、多くの薬剤と相互作用が起こり得ると思いますので、併用薬には十分の注意しないといけないかと思います。
ご自身のブログでの解説↓
最後は@たけちゃん
Perm J . 2019;23:18-161.
- PMID: 30624198
こちらは、Zドラッグ(ゾピクロン、ゾルピデム、ザレプロン)の中止への介入として通常ケアと教育情報のみ、教育情報+薬剤師の介入の3群に分けて中止率を検討したものです。教育情報の介入の資材は医師・薬剤師・研究者からなるチームによって開発され、患者にZ-drugの使用を再考するよう促す処方医からの手紙、Z剤による有害性の証拠、不眠症を治療するための効果的な薬理学的および非薬理学的代替薬の提案等が記載された教育用パンフレット、Zドラッグ使用のリスクに関する自己評価を提供するクイズが配布されたとのことです。薬剤師の介入はこれに加えて、患者が教材を受け取ってから2~4週間後に、電話相談を行ったようです。
結果としては、通常ケアより教育情報のみ、また教育情報+薬剤師の介入の方が中止率はかなり高かったようですが、教育情報のみ群と薬剤師介入群では差がなかったようです。
一見、薬剤師の介入の意味がなかったかのようにも思えますが…中止率が50%オーバーと高めであること、介入の資材がかなり充実していた印象を受けること(どんな資材だったか見てみたいです)を考慮するとある程度限界だったのかなとも思います(薬剤師の介入に意味がないと思いたくない、という私のバイアスがかかってるのは間違いないですが…薬剤師の介入が悪い方向には行ってないようなのでよかったです。資材作りにも薬剤師は関わっていますからね)。
睡眠薬を悪者扱いするのは好きではありませんが、止められるに越したことはないと思います。薬剤師としてどう関わっていけばいいのか、また考えていきたいと思います。
ご自身のブログでの解説↓
今回は以上になります。
@Fizz-DI、@猫になりたい薬剤師、ご参加ありがとうございました!
次回は7/15(水)の22時00分から、「フリーテーマ」にて行う予定です。
よろしければご視聴くださいませ!
引き続き参加者は募集中ですので、ご希望がございましたらご連絡ください!