リンコ's diary

田舎の地域医療を志す薬剤師

月刊ブログ 田舎の地域医療を志す薬剤師(2014.5)

早いもので5月になりました。
思い返してみると、先月は管理者になり、バタバタの1か月でした。

そんな中ではありましたが、名田庄診療所の中村伸一先生の講演があるということで、
福井市まで行ってまいりました。
中村先生は、2009年にNHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」にも出演された
著名な先生ですが私はあまり存じ上げず、
去年ある薬剤師の方の講演の中で中村先生が登場し、そこで初めて知りました。

講演会後、先生の代表的な著書である
『自宅で大往生-「ええ人生やった」と言うために』
を読みました。
今回はその講演会と著書を読んで考えたことを中心に書いていきます。

こんなことを書いたら名田庄の方に怒られるかもしれませんが、
名田庄はド田舎です。まさしく「へき地」といった感じです。
こちらに帰ってきてから2度名田庄には足を運びましたが、やっぱりド田舎でした。
ちなみに「なたしょう」と呼びます。去年講演をお聞きした薬剤師の方は、
「みょうたしょう」と読まれていたので、講演後に挨拶がてら訂正させて頂きました(笑)

先生は28歳だった1991年に名田庄に来られ、
以降名田庄診療所で診療をされているようです。
それからこれまでに名田庄における地域医療の仕組みを作り上げてこられたようです。
本当に頭が下がりますし、感謝の気持ちでいっぱいです。
詳しくは先生の著書をお読みください。
今や、「借金と夫婦げんか以外なら、何でも相談できる先生」(P5)と言われているようです(笑)

名田庄は田舎村ということもあり、
自宅で最期を迎えたいと考えている人が大勢いるようです。
そしてそのために中村先生が奮闘されていることが、
講演会や著書からよく伝わってきました。
先生が来られた平成3年~17年までの在宅死亡率は42%にもなったようです。
これはすごい数字だと思います。ちなみに全国平均は12~20%のようです。

著書の中から、在宅死に関して気になった部分を引用いたします。

家には、家が持つ不思議な「力」があるのも事実です。
科学的な根拠やデータはありませんが、臨床の現場では、
退院して自宅に戻っただけで食欲が増し、
精神的にも落ち着き、痛みが和らぐ人を少なからず見ることがあります。
入院中と薬は全く変わらないにもかかわらず、体調が改善していくのです。
(中略)
窓から見える風景、かわいがっているペット、近所の人との変わらぬ付き合いなど、
「いつもの自分」でいられることが大きな力になっているのではないでしょうか。(P33,34)

乳がんが再発したその患者さんも、病院での「患者役」だけの生活が嫌だったのでしょう。
家に帰れば、息子さんのお弁当をつくる「母親役」があります。
もちろん、夫にとっての「妻役」やペットにとっての「飼い主役」など、
他の役割もあるはずです。(P36)

最初にその患者さんの口から出た言葉は、
「いやー、やっぱり家はええなー。先生、この川のせせらぎを聴いとると、
生きてるっていう実感がするんや。」
でした。この言葉には、心からの満足感がありました。(P38)

「父は家でなくなることで、私の子供たちに最後に命の教育をしてくれました。
私自身も父を看取ることで、多くのことを学びました。
病院ではこうはいかなかったと思います。」(P43)

命のリアリティーや死生観というのは、有名な研究者や宗教家の話を聞いても、
ピンとくるものではないと思います。これらは、知性で理解するものではなく、
完成で得られる類のものだと思えて仕方がないのです。
大切な人をなくす喪失感と痛みを直に感じてこそ、
人は初めて命のかけがえのなさを知るのではないでしょうか。
 近年は「子供につらい思いをさせるのは酷だから」と、
身内に死に際を見せないこともあるようですが、子供は幼くても幼いなりに、
大人よりもむしろ柔軟に、そのつらさを乗り越えていくように思います。(P45)

大切な事、すばらしい言葉ばかりですね。
見慣れた環境があり、大好きな家族に囲まれながら逝くということは、
本当は誰もが望んでいることなのではないかと感じました。

また、講演会や著書では先生が「自宅で看取った」様々な例が紹介されていました。
患者さんそれぞれにドラマがあり、本当に心に残る話ばかりでした。
何よりも先生が本当に患者さんに親身に接しておられ、
患者さんからは信頼され、愛されていると感じました。

しかしこのような仕組みがあり、このような医師がいる地域は幸せですが、
そうではない地域もたくさんあることを理解していなければなりません。
地域医療に関しては、著書で崩壊の危機とも書かれています。
やはり医療従事者の人材不足、病院の経営難がいたるところで見らるからです。
私の勤める病院も例外ではありません。
特に田舎では不足しやすい状況があります。
先生のおっしゃるように、地域全体で取り組んでいかなければならない課題だと思います。

先生のお話を聞き、また著書を読むことで、
自分のしなければならないことがより明確になったように思います。
以前から言っているように、
「医療=町づくり」という概念で医療に取り組んでいかなければなりません。
病院薬剤師として、よりシームレスな連携ができるように働きかけていきたいと思います。
管理者になったこともあり、先日周りの薬局にご挨拶をしに伺いました。
幸い、程度の低い薬局はなかったように思います。
それぞれの事情があり、またやはり人材不足ということで難しい面もありますが、
これから連携していけるように努力していきたいです。

来週の5/10,11は、「第5回 日本プライマリ・ケア連合学会学術大会」に参加して参ります。
しっかりプライマリケア、地域医療について学んできたいと思います。
またブログで学んだことをまとめたいと思います。

P.S 2度名田庄に行ったうちの1回は通過しただけですが、
   もう1回はボタン鍋(シシ鍋)を食べに行きました。おいしかったです(^O^)
   せっかくですので、お店を紹介しておきます↓
 

↓去年発売された先生の新作です