リンコ's diary

田舎の地域医療を志す薬剤師

2018年度薬剤耐性(AMR)対策推進月間(その①):院内での職員対象AMR対策研修会のおすそ分け

      f:id:gacharinco:20181103090659p:plain

11月は薬剤耐性(AMR)対策推進月間です。

それに合わせていくつかブログを書いていこうと思います。

 

今回は、先日院内で行った職員対象のAMR対策の研修会で話した内容をスライドを用いて紹介していきます。

医師・臨床検査技師・看護師とともに話をしまして、医師からは「AMR対策の概要について」、検査技師からは「耐性菌と感染症の各種検査について」、看護師からは「耐性菌を広げないための対策」について話をしていただきました。

私からは「耐性菌を作らない」について話をしました。

 

まずはこちらの動画を見てもらいました。

なかなかうまくできている動画だと思います。一般の方にとっても理解しやすいんではないかと。

実はもう一つ動画を使いたかったのですが、時間がなくて使えず。ご紹介だけしておきます。

これも素晴らしい動画です。耐性菌の歴史や抗菌薬使用の問題点等が多まかに把握できるかと思います。

 

それでは本編へ。

f:id:gacharinco:20181103093103p:plain

 ちょっと強引な持っていき方ですが。私自身、医療者だけが知っていればいいのではないか?と思っていた時もありましたが、やはり一般の方にも知っておく必要があるように感じています。これからそのことについて書いていきます。

f:id:gacharinco:20181103094729p:plain

こうやってみると、耐性菌ってすぐにできてしまうことがわかりますね。レボフロキサシンに関しては発売した年にできてますからね。。。

f:id:gacharinco:20181103095027p:plain

耐性菌ができたとしてもそれに対する抗菌薬がどんどん開発されてくればいいですが、右肩下がりになってきています。そのため現在ある抗菌薬を適切に使用し、耐性菌ができないようにする必要があります。

f:id:gacharinco:20181103095304p:plain

抗菌薬A,C,D,Eのいずれも効果があると考えられますが、この時使うべきは抗菌薬Aです。できるだけ菌をピンポイントで狙って、耐性菌ができないようにしていく必要があります。

f:id:gacharinco:20181103095847p:plain

ザックリですが、基本的なことかと思います。臓器によって、その臓器を得意とする抗菌薬がありますし、臓器ごとで原因となる細菌が異なります。また、臨床検査技師の話にあったような各種検査をすることで起因菌を絞り込むこともできます。細菌は目には見えませんからね。臓器と起因菌が分かれば抗菌薬の選択ができます(もちろんそうでない場合もありますが…)。そのあとにその方の体格、腎機能等を考慮して、適切な用法用量、投与期間を選んでいくわけです。

 

引き続き、AMR対策アクションプランについてと当院の現状について話をしました。

f:id:gacharinco:20181103100505p:plain

このグラフをみてどう思われますか?日本は抗菌薬の使用量に関しては海外の各国に比べて多くはないようです。しかし、その抗菌薬の内訳が大きく異なります。他国に比べてオレンジ色のペニシリンが少なくて、マクロライド、キノロン、セフェムの割合が多くなっております。これらはいわゆる広域抗菌薬に分類され、たくさんの細菌に効果があるため耐性菌の温床になっていると考えられています。また、この文献には日本の抗菌薬使用の92%が経口抗菌薬であることも記載されております。そしてその多くが’風邪’に使われていると言われております。

f:id:gacharinco:20181103223401p:plain

AMR対策アクションプランでは抗菌薬使用量の目標値が定められております。当院では、経口セフェム、キノロン、マクロライドは大幅な減少傾向にあり、目標が達成できそうな状態です(ここでは具体的な数字は伏せておきます)。

f:id:gacharinco:20181103101722p:plain

これは他国との耐性菌の割合の比較です。日本はわりと多いような印象です。一番右側はいわゆる大腸菌のESBL産生菌のことですが、これは現在増加傾向であり問題となっております。

f:id:gacharinco:20181103223550p:plain

耐性菌に関しても目標値が定められておりますが、いずれも非常に厳しい目標値です。肺炎球菌のペニシリン耐性は、前述のグラフに比べて大きく減っているのが分かると思います。これは小児への肺炎球菌ワクチン接種の定期化が影響していると聞いております。黄色ブドウ球菌のメチシリン耐性率、いわゆるMRSA率は昔に比べたら改善してきているようですが、目標にはまだまだ遠いですね。大腸菌のキノロン耐性も高止まりしている印象です。大腸菌といえば尿路感染症の起因菌の大部分を占める細菌ですが、その40%がキノロン耐性です。でも、尿路感染症にキノロンが出ているのをよく見ませんか?当院では啓蒙をした結果、ほとんど処方されなくなってきております。(ここでも当院の具体的な数字は伏せておきます)

 

さて次は、急性気道感染症に対する抗菌薬について

f:id:gacharinco:20181103102540p:plain

抗菌薬を飲んで治ったのは、抗菌薬を飲んだからなのか、それとも、、、

f:id:gacharinco:20181103105216p:plainf:id:gacharinco:20181103105434p:plain

抗微生物薬適正使用の手引き」を使って説明していきました。厚生労働省がこういった手引きを使わないとヤバいくらい、抗菌薬が乱用されている現状があるということではないでしょうか。

f:id:gacharinco:20181103105701p:plain

これが重要です。抗菌薬は細菌には効きますがウイルスには効きません!これをしっかり理解してもらう必要があります。

f:id:gacharinco:20181103105915p:plainf:id:gacharinco:20181103105938p:plain

まずは感冒について。

ここでは、「発熱の有無は問わず、鼻症状(鼻汁、鼻閉)、咽頭症状(咽頭痛)、下気道症状(咳、痰)の 3 系統の症状が「同時に」、「同程度」存在する病態を有するウイルス性の急性気道感染症」を指します。

抗菌薬の使用に関しては、「感冒に対しては、抗菌薬投与を行わないことを推奨する。」となっております。ウイルス性の疾患なので基本的には必要ないようです。

f:id:gacharinco:20181103111833p:plainf:id:gacharinco:20181103111924p:plain

問題を出してみましたけど、あまり手を挙げてくれなくて統計は取れず。4000人に1人と聞いてどう思ったのか気になります。私が初めて聞いたときはかなり衝撃的でしたけどね。表の下にある「chest infection」(気管支炎的な?)についてはNNTが65歳未満で約100、65歳以上で39ということなので、少し解釈に注意は必要です。

f:id:gacharinco:20181103112309p:plain

さらに、風邪における抗菌薬使用の肺炎による入院予防効果について。勝手にるるーしゅ先生の4コマを借用しました。たぶん友達だから大丈夫(笑)。元ブログはこちらから(風邪に抗菌薬の使用で重症化を予防できますか?)。1万人に使用して1人の肺炎による入院を防げますが、同じ割合でアナフィラキシーを起こす可能性があり、その他の副作用のリスクもある、とのことです。

f:id:gacharinco:20181103114051p:plainf:id:gacharinco:20181103114148p:plain

f:id:gacharinco:20181103114222p:plain

次は急性鼻副鼻腔炎について。ここでは「発熱の有無を問わず、くしゃみ、鼻汁、鼻閉を主症状とする病態を有する急性気道感染症」を指します。

抗菌薬の使用に関しては、「中等症以上の急性鼻副鼻腔炎で抗菌薬の適応がある場合には、アモキシシリン水和物が第一選択薬として推奨されており、用量等は、アモキシシリン水和物1回500mgを 1 日 3 回 5~7 日間内服とされている。」との記載となっております。

f:id:gacharinco:20181103123355p:plainf:id:gacharinco:20181103123407p:plain

次は急性咽頭炎。ここでは「喉の痛みを主症状とする病態を有する急性気道感染症」を指します。「咽頭炎の大部分の原因微生物はウイルスであり、抗菌薬の適応のある A 群 β 溶血性連鎖球菌(GAS;いわゆる、溶連菌)による症例は成人においては全体の10%程度と報告されている。」とのことで、抗菌薬の使用に関しては「迅速抗原検査又は培養検査で GAS が検出された急性咽頭炎に対して抗菌薬投与を検討することを推奨することとし、その際には、アモキシシリン水和物を 10 日間内服することとする。」との記載となっております。

f:id:gacharinco:20181103123756p:plainf:id:gacharinco:20181103123804p:plain

最後は急性気管支炎。ここでは「発熱や痰の有無を問わず、咳を主症状とする病態を有する急性気道感染症」を指します。「急性気管支炎の原因微生物は、ウイルスが 90%以上を占め、残りの 5%~10%は百日咳菌、マイコプラズマ、クラミドフィラ等であると指摘されている。」。抗菌薬に関しては、「成人の百日咳を除く急性気管支炎に対しては、抗菌薬投与を行わないことを推奨する。」となっております。

f:id:gacharinco:20181103125232p:plain

これまでのことが簡単にまとまっているのがこの表になります。

こうやってみていくと、急性気道感染症での抗菌薬の出番はかなり少ないと言えるかと思います。あとは、どのくらいの周知できるか、、、

 

f:id:gacharinco:20181103124856p:plain

 前年度末に添付文書の改訂があり、上記の文言が追加されております。添付文書に書いたところで、、、って気もしますが、周知する一つの方法ではあるのかなと思います。レセプトで切るのは難しいでしょうけど。。。

 

f:id:gacharinco:20181103125411p:plain

今回は一般職員にも話をしましたが、やはりこういった現状があるので医療職以外の方にも理解しておいてもらう必要があると思います。希望の率はやや高めに見積もられている気もしますが、、、やはりそういった要望があると処方してしまう医師もいるようです。仕方ないというかなんというか…それを説明するのも仕事の一つかとは思いますが。もちろん薬剤師が質問されるケースもあるとは思いますので、しっかり理解しておかないといけません。

f:id:gacharinco:20181103131122p:plainf:id:gacharinco:20181103131209p:plain

これは「AMRワンヘルス動向調査2017年レポート」からの引用です。間違って認識している方がかなり多い印象です。左側は3択ですからね。。。今回の研修でこういった認識が少しでも改善できていれば嬉しいですし、一般の方への啓蒙を引き続き行っていきたいです。

f:id:gacharinco:20181103131733p:plain

小児科では「小児抗菌薬適正使用支援加算」が今年度より算定可能となりました。こうやって「飴」を与える施策も始まっています。80点はかなり大きいですね。当院には小児科がないですが、どのくらいの割合で算定して、どのくらい抗菌薬の処方に影響は出ているんですかね?気になるところです。

f:id:gacharinco:20181103132033p:plainf:id:gacharinco:20181103132100p:plain

「AMRリファレンスセンター」のポスターよりピックアップしました。抗菌薬を飲み切る・取っておかない・あげたりもらったりしないこと。そして感染症を予防するために、手洗い・咳エチケット・ワクチン接種を行うこと。全部すごく重要なことかと思います。

f:id:gacharinco:20181103132346p:plain

最後に、昨年募集された「第1回薬剤耐性あるある川柳」の入賞作から3つをピックアップして、参加者に唱和してもらいました(笑)

私の今回話した内容がこの3つの川柳の中にギュッと詰まっています!

そういえば第2回の募集が始まってますね。↓

「第2回 薬剤耐性あるある川柳 | かしこく治して、明日につなぐ~抗菌薬を上手に使ってAMR対策~」

みんなで応募しましょう♪

 

以上になります。

 最後まで見ていただきありがとうございました。少しでも何かの役に立てば幸いです。